杉玉・酒林

もう梅もほころんで春も間近・・・

 お酒を醸造している蔵元の軒先に杉の葉を丸く提灯のように象ったものが飾られていることがあります。杉玉とか酒林と呼ばれるもので、新酒の仕込みが終わった時点で新緑のものが飾られ、これが茶色になる頃、ちょうどお酒も熟成するという塩梅になっているそうです。

 由来については2説あるようですが、そのうちひとつは酒の神様を祀る奈良県の三輪神社の御神体が杉の木であることによるとされています。

 西洋にもギリシャ神話のバッカスの神木「キヅタ」を使った「ブッシュ」という造り酒屋のシンボルがあるそうです。風習や民話は人間の移動に伴い伝播していくものでしょうから、昔々大陸を横断する人の交流があったのかもしれません。

 壱岐にも西洋との関係をうかがわせるお話がいくつか残っているようです。例えば鯨をすくい捕るため九州本土と壱岐に足をかけ、その踏みしめた跡が牧崎の「鬼の足跡」となっている「でぃ」という鬼のルーツは、おそらくギリシャの「タイタン」でしょうし、同様の話が「だいだらぼっち」とか「泥田坊」とかの名前で全国に散らばっているようです。

 他にも芦辺町八幡浦に伝わる「禿童(はぎわら)」という竜宮伝説の中にはモーゼの出エジプト同様海が別れて道ができる場面が出てきます。日本人の先祖もきっと大陸から対馬・壱岐を経て本土に渡っていったのでしょうねぇ。

 ついでに、長野県に安曇野という地名があるのはご存じだと思いますが、昨年松本市役所を訪問したとき、観光温泉課長さんから「福岡県内の由緒正しい神社の宮司さんの名前も安曇という。」と教えられました。安曇は海人族の部族名で、長野には糸魚川を遡って諏訪にたどり着いたそうです。諏訪神社の御柱祭りのモニュメントは勝本に贈られていますし、行ってみて思わぬ日本人の移動経路を知ることができました。そういえば、今も勝本のイカ釣漁師は日本海北上して金沢とか函館で水揚げしてますしね。

 長野のお酒としては、長野オリンピックの観衆が一生懸命うち振っていた小旗にもしっかり名前がはいっていた「真澄」が一番有名ですが、他にも「信濃錦」や「岩波」といった銘柄があり、デパートやスーパーでもその店独自に土地柄や製品の特徴をきちんと表示しながら販売しています。長崎では長野のように地場の独自性を強調した上で県産品を売っているところはほとんどないようです。

 蔵元では新緑の杉玉が軒に飾られたころでしょう。これから暑い夏をこしたころどんなお酒になっているのか、酒林の色のうつろいとともに美味しいお酒に巡り会うことを楽しみにしておきましょう。

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